「結局……私は……何もできなかったの?」
目の前でネストが海中へと沈んでいく。可憐――大切な仲間と一緒に。
「こんなの嘘だよね!可憐ちゃん!ねえ、応えてよ……。お願いだから……」
「カレン!ねえ、カレンってば……。嫌だよ……こんなの。戻ってきてよ……」
音羽もエリーゼも必死で呼びかける。そんな声がどこか遠く聞こえた。
「こんな終わりかたなんて……私は認めない!そうでしょ……可憐。あなただって……そう思っていたはずなのに……」
そして、自分の涙声さえも他人事のように感じられた。その傍らでは、主のいない風神が静かに、水面を見つめていた。
「――官。一条教官!」
聞きなれた声が瑛花の意識を引き戻す。目の前には心配そうな七恵の顔。辺りを見回すと、そこは見慣れた場所。追浜試験場の一室だった。
「また、あの夢……か」
もうあれから4年も経つのに、いまだに繰り返し見続けている悪夢。瑛花は頭を振って残渣を振り払う。
「あの……瑛花さん」
遠慮がちな声で七恵が呼んだ。名前を。
「少し、休まれた方がいいと思います。顔色もあまりよくありませんし」
それはもっともなこと。少なくとも一条瑛花という人間の性格上、仕事中に居眠りをするなどありえないだろう。よほど、というか限界を超えて無理を重ねでもしないかぎりは。が、瑛花はそれをやんわりと拒否する。
「そうもいかないわ。あの子達を少しでも早く一人前にしないと。今どこまで進んでるの?」
「後は最後、バーティカル・キューピッド・クロスだけです。ここまでは大きなミスもありません」
「そう」
モニターの中では4機のソニックダイバー。ソニックダイバー・レスキュー隊――通称WW(ツー・ダブリュー)――の第三期訓練生4人が空を舞っている。現在は10日後に控えた追浜航空祭で演じるデモフライトの練習中。
「フォーメーション、開始してください」
『了解!』
インカムからは4つの返事が返ってくる。
「大丈夫……ですよね?」
不安そうな七恵。これから彼女達がやろうとしているのはバーティカル・キューピッド――噴煙で描かれたハートの中心を射抜くように急上昇する――にアレンジを加え、上と下から交差するようにハートを射抜く、というフォーメーションである。
「ハートは……少しゆがんでいるけど、悪くないわ。後は……」
ハートの中心に向かって2機が進む。が、その軌道を見ていた瑛花の眉が跳ね上がる。
「サウディ、コースがずれてる!島月(とうげつ)、スピードを落としなさい!」
そして――
モニターの中で2機のソニックダイバーが衝突、両機ともに墜落した。
「あ、あの……教官?」
背後で揺らめくものを感じてか七恵が恐る恐る訪ねる。
「はぁ……。シミュレート終了。その場で待機するように伝えて。私はあの子達のところに行くから」
「りょ、了解」
七恵は訓練生達に同情を禁じえなかった。これは荒れるな、と。
続き
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