二次創作小説
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KANRI

スカイガールズ IF 風の求め

第2部 失くしたもの

2ページ目


「……少し急ぎましょう。音羽さん達との距離が開いています」
「了解」
 風神のODDディスプレイにネストの変化が映った。
(これは……水中に熱源……魚雷?軌道予測、標的は……攻龍)
 ディスプレイ内の攻龍はすでに迎撃体勢に入っている。念のため予測軌道を送ると再び意識を音羽達に向ける。その刹那――
(な、何?この感じ!?)
 奇妙な違和感が可憐を襲った。
(魚雷の軌道……再計算。標的は攻龍、間違い無い。攻龍はすでに迎撃体勢。流れ弾の可能性は……攻龍以降の軌道……予測。後方に味方艦はいない。ええっ!?)
 可憐はハッとなる。確かに魚雷の予測軌道上には攻龍以外の艦はいない。だが、その真上には計5つの光点、そして内ふたつは――
「いけない!音羽さん、アイーシャさん!上へ逃げて!下から――」
 叫ぶと同時に風神は降下を始めていた。


 音羽の耳には可憐の――いつになく取り乱した――声が響いていた。
『音羽さん、アイーシャさん!上へ逃げて!下からみず――』
 が、それを最後まで聞くことはできなかった。音羽の目の前にシューニアが割り込むと同時に視界が何かで真っ白に染まる。そして、跳ね飛ばされたシューニアが放物線を描いて落ちていくのがスローモーションのように見えた。
「アイーシャーーーーーーっ!!」
 なんとか水中に落ちる前に受け止める。しかし、シューニアはあちこちが破損し、アイーシャもぴくりともしていなかった。
「アイーシャ!しっかりして!アイーシャ!」
 必死に呼びかけるも答える声は無い。次の瞬間、周囲で爆音が響いた。それは風神の空対空弾が零神とシューニアを狙うワームを破壊した音。だが、今の音羽にはそれに気付く余裕さえ無かった。
「音羽さん!」
 風神が、少し送れて雷神とバッハも舞い降りる。
「あ、可憐ちゃん、アイーシャが!」
 取り乱す音羽を可憐が落ち着かせる。
「アイーシャさんは大丈夫です」
「ホントに?」
「はい」
 言いつつも可憐はシューニアとアイーシャの状態をさらに詳しく調べていく。
「衝撃で気を失っているだけです。軽い打撲はありますけど……うん、脳波も正常です」
「そっか……良かったー」
「ですが……」
 言いよどむ、そして――
「シューニアの損傷率33%。右マニュピレーター……消失」


「アイーシャ!?」
 ブリッジでは周王が悲鳴を上げていた。
「藤枝!何があった?」
「あ、はい」
 風神から送られてきた情報がモニターに映し出される。そして――
「シュ、シューニアの右マニュピレーター……しょ、消失!?」
「なん……だと……」
 悲鳴に近い七恵の報告に冬后も顔面蒼白になる。作戦の締め、ウィルスアタックはシューニアの左右マニュピレーターから行うもの。つまり、それが失われたということは――作戦遂行が不可能になったということを意味する。


「可憐、一体何が起きたの?」
「魚雷を自爆させて水柱で攻撃したんです」
「そんな……非常識な……」
 確かに瑛花の言う通り。魚雷を対空に使うなど普通は考えもしないだろう。もっとも、水面スレスレの飛行も可能なソニックダイバーに対してだからこそ有効な方法だったとも言えるが……。
「それじゃあ……アイーシャはあたしをかばって!?あたしのせいだ……。あたし……アイーシャのこと護るって決めてたのに……ごめん……ごめんね、アイーシャ」
「違います。私が……もっと早く気付いていたら……すみません、私のミスです」
 シューニアを抱きしめ涙を流す音羽。そして、可憐も悔恨の表情を浮かべていた。


「冬后大佐、彼女達に帰投命令を出したまえ」
「艦長!?それでは」
 門脇の言葉に嶋が異を唱える。だが、門脇はそれを無視して続ける。
「責任は私が取ろう。帰投命令を。ビックバイパー隊も可能な限りその援護に。天武にも伝えたまえ。作戦は……失敗だ」
「了解」
 感情を押さえ込み、抑揚無く答える冬后の口元からも血が流れていた。


「反省会は後にしなさい!」
 自分を責め続ける音羽と可憐を瑛花が一喝する。
「攻龍から帰投命令が来たわ。作戦は失敗よ」
「でも……今エリーゼ達が逃げたら世界中の人達が……」
「それもわかった上で、よ」
 瑛花はあくまで淡々と告げる。一度感情が溢れ出してしまえば自分も冷静ではいられない。そう感じていたから。
「アイーシャを安全なところへ連れて行く。泣くことや悔やむことよりもそのほうが優先順位は高い、違う?」
 諭すような言葉。
「……はい」「……了解」
 可憐、音羽も顔を上げる。
「可憐、離脱ルートを」
「はい」
「皆で約束したのに……」
 エリーゼの悔しそうな声。可憐も一瞬思い出していた。あの時の言葉にはひとつとして偽りは無かった。ふるい網を掲げている姿には疑問はあったが――
 ふと何かに気付く。
(待って……!?あ、そうだったんだ……そう考えれば全ての辻褄が合う。それなら……まだ……)
 すでにナノスキンの限界までは6分を切り、“黒雲”の端までは7000以上の距離がある。が、それでも可憐には突破口を見出すことは出来た。そして、途切れた希望を、再び繋ぎとめる可能性も――
「算出できました、脱出自体はなんとかなります」
「さすがね。それで、どうやって?」
「手短に話します。音羽さんはシューニアを抱えて攻龍の方向へ向かってください。エリーゼさんは前方、瑛花さんは後方の護りを。距離を稼ぐ必要はありません。140秒だけでかまいません。なんとか保たせてください」
「140秒って……それじゃ全然足りないじゃない。それに可憐はどうす――」
 首を横に振って瑛花の言葉を遮ると可憐は真っ直ぐに目を見て告げた。
「……ごめんなさい」
 そのまま、返事を待たずに飛び去っていく。――ネストのある方向へと。
「可憐!?」


「ええっ!?」
 ブリッジには今日何回目になるかも分からない七恵の悲鳴が響いていた。
「今度は何だ?」
「は、はい。風神が単独で……」
『冬后大佐!』
 七恵の報告を遮るようにインカムに瑛花の――彼女にしては極めて珍しく――悲鳴が届いた。
「どうした!」
『風神、可憐が……』
 モニター内では風神を示すオレンジの光点が他の4機から離れて単機、ネストへ向かっていた。
「なんだと……」
 一瞬の思考。冬后はすぐに指示を出す。
「一条!お前達は離脱だ!」
『ですが……』
「園宮はオトリになるつもりだ。なら、お前達が無事逃げ延びれば園宮が危険を冒すことも無い。園宮の性格なら退路無しに無茶はしないだろう。お前達は逃げることだけを考えろ。いいな!」
『……了解』
 一瞬の沈黙は完全には納得できない、という意思表示なのだろう。瑛花の故意かどうかはさておき。が、無理も無いこと。冬后自身も納得はできていないのだから。けれど、4つの光点がネストとは逆方向に移動を始めたのを見て冬后は胸を撫で下ろしていた。
(後はアイツしだいか……。頼む……一条達を助けてやってくれ)


続き