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| 射手の名前 3ページ目
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「あの、教えてほしいことがあるんです」
相反する想いがせめぎ合い、結局勝ったのは後者。
「先輩方は、どのようにして紋章機のコードネームを決めたんでしょうか?」
ちとせはまっすぐにレスターの隻眼を見据える。
が――
「それを教えることはできんな」
帰ってきたすげない返事に肩が落ちる。
「正確には、俺も知らない、だ。あいつらと出会った時にはすでに今の名前で登録されていた。由来を聞くこともなかったしな」
「そう……でしたか」
「なるほど、お前が悩んでるのはそのことか。期限は明日だったが。決まりそうにないのか?」
「いえ、ひとつの候補はあるんです。けれど……」
「けれど?」
沈黙が落ちる。けれどレスターは先を急がせることなく、静かに待つ。そして――
「その名は……私のような未熟者が背負うには大きすぎるんじゃないかって。そう思えるんです」
再び沈黙が落ちた。
「お前が未熟かどうか、ってのは置いとくがな」
先に沈黙を破ったのはレスターの方。
「たしかに、経験量はあいつらと比べて圧倒的に足りない。実戦のそれにいたってはゼロ。それは事実だ」
「はい」
「だがな、それはお前に限ったことなのか?」
「私に……限った?」
なかば反射的にオウム返しな言葉が漏れる。だがちとせはその意味を理解できずにいた。
でも……先輩達は……。
「そうじゃない」
え……?
見透かすような言葉が思考を中断する。
「細かい事情は知らんがな。あいつらにもあったんじゃないのか?初めて紋章機に触れた日は」
「あ……」
よくよく考えてみればそれは当り前のこと。けれど、その言葉はちとせの心に響いていた。深く。重く。
思いもしなかった。先輩達だって、最初から今のようだったはずないのに……。
「お前のなかでムーンエンジェル隊やタクト・マイヤーズがなかば神格化されてるのは薄々気付いていたよ。それについてどうこう言う気は無い。連中は英雄と呼ばれるだけのことを成し遂げた。それは事実ではあるがな。……あまりそうは見えないが」
「はい……」
「そして、そこに追い付こうってのは困難だろうな」
「はい……」
「もしお前がその労苦を厭って愚痴や弱音を漏らしてるならここで一喝くれてやるところだが」
そこまで言って不意にレスターは笑みを浮かべた。口元だけの、一瞬で、ごく小さな。よく見ていなければ見逃すような笑みを。
「それはないだろう。まず、な」
「なぜ、そう思うのですか?」
こんな私を……そこまで……?
「さっきも言った。そのくらいにはお前のことを知ってるつもりだ、とな」
「あ、ありがとうございます」
「コードネームの提出期限は明日……いや、もう日が変わってるか。今日中だが、少しくらい伸ばすか?」
ちとせはゆっくりと首を横に振って答える。
「いえ、大丈夫です。お気づかい、感謝します」
と、礼儀作法の見本さながらに深く、綺麗に頭を下げる。
「もう少し、考えてみます」
顔を上げた時、その瞳には光が宿っていた。“烏丸ちとせ”を象徴するような、真っ直ぐな光が。
「そうか、なら部屋に戻れ。考え事なら横になっていてもできるだろう?」
「はい」
「明日から忙しくなる。しっかり体を休めておけ」
「はい。本当に、ありがとうございました。では、失礼しますね」
「礼にはおよばんさ」
「全く……こういうのはあいつの役目なんだが……。ま、たまには悪くないか」
見回りを終え、ブリッジに戻ったレスターの口からもれたのはそんなひとりごとだった。
「気付いているのかいないのか。多分後者なんだろうな」
片隅に丸めてある寝袋、ではなくコンソールに向かい、ひとつのファイルを立ち上げる。
ファイル名は“訓練成績 烏丸ちとせ少尉”
ムーンエンジェル隊の訓練結果には――当然のことながら――レスターも目を通している。他の4人と比較するとちとせの実力はいくらか見劣りする。また、柔軟性に欠け、とっさの判断がやや弱いのも事実。
だが、――レスターはあえて言わなかったことだが――圧倒的に経験が足りない、にも関わらず他のメンバーと比べた場合、実力には“いくらか見劣りする”程度の差しかない。それもまた、事実。そして、その差はこの数日で目に見えて小さくなっているのも、事実。
「素質、だけじゃない。全力で訓練に取り組むってだけでもああはいかない。烏丸ちとせか……。大化けするかもしれんな」
続き
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