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| 記念日前夜 |
――兄様、お元気ですか?今、私は追浜試験場の食堂でこの手紙を書いています。先日もお伝えしましたが、今日はソニックダイバー・レスキュー隊の結成記念式典です。私も半年振りに風神で空を飛びました。久しぶりのフライトでしたが、緊張することもなく、いつもより楽しく飛ぶことができました。まだ、興奮が覚めていない感じです。私が風神と飛ぶのはこれで最後。寂しくもありますが、そろそろ風神を休ませてあげるべきなんですよね。風神はモニュメントとして記念館に飾られるそうなので、いつか見に行こうと思います。
お話は変わりますが、速水たくみさん、という方をご存知ですか?何度かお伝えしましたが、私がパイロットをしている間とてもお世話になった方です。たくみさんは写真を撮るのが趣味だそうなんです。それで、いつか兄様が設計した建物をご案内すると約束していたのですが、今度のお休みに行くことになりました。場所は神奈川県の相模原市を予定しています。あそこなら市内だけで4ヶ所ありますから。兄様の設計した建物の素晴らしさを少しでも伝えられるよう、頑張ります。
それでは、また。お体には十分にお気を付けて――
これは、そんな手紙が初夏の夜に引き起こしたひとつの騒動。
スカイガールズ アフターストーリー
記念日前夜
(最初は……どこがいいかな?)
「可憐」
(やっぱり、落ち着いたところから、かな?)
「かーれーん」
(あ、でも交通の便も考えないと。ゆっくり見て回れるほうがいいよね。たくみさんにも喜んでほしいし……)
「可憐!」
耳元からの声。
「ひあっ!?」
目の前にはルームメイトの顔があった。
「や、弥生さん……。おどかさないでくださいよ」
「ごめんごめん。けどさ、何度も呼んだんだけど?」
「えっ?そう……だったんですか?」
どうやら、聞こえていなかったようだ。
「明日のこと考えてたんでしょ?」
「はい」
「無理もないか。可憐の記念すべき初デートだもんね」
その中のある単語に可憐は真っ赤になる。
「デ、デート!?ち、違いますよ。兄様の設計した建物をご案内するだけで……。その……デートというわけでは……」
「でもさ、若い男女がふたりっきりで出かけるのは普通――」
「ふ、ふ、ふたりっきり!?」
さらなる追撃。弾道予測には無類の精度を誇る可憐だがそういった方面では全くの無防備だったようだ。
「そ、その、たくみさんは前にすごくお世話になった方なんです。だからそのお礼をかねて……」
「たくみさん?初めて聞いた気がする。可憐が男の人を名前で呼ぶのって」
「なまっ!?それは、その……えっと、ですから……」
すっかり言葉に詰まってしまう。そして――
「はぅ……」
パタリ、とベッドに倒れこむ。
「可憐!?」
慌てて駆け寄る弥生。
「もしかして……気絶したの?」
そう、処理能力の限界を超えた可憐の脳はショート。強制的にブラックアウトを起こしていた。
「はぁ。最近は異性にも免疫がついてきたと思ってたけど。恋愛はまだ早い、か」
「ん……」
毛布をかけ、頭を撫でると可憐の口から声が漏れた。
「たくみさん、か」
苦笑しつつ、可憐のデスク脇にかけられたボードに目を向ける。そこには何枚もの写真が貼られていた。
「……男とのツーショット写真は……お兄さんだけか」
それ以外、写真の中から自分が知らない顔を探していく。集合写真のようなものが何枚かある。可憐と同年代と思われる女の子が数人、20台後半の女性もいるが、それは除外。
「あとは……。見るからに40歳を超えてるのもバツ、と」
ぼろぼろのジャケットを着た無精髭や、調理関係と思われるエプロン姿の男等を除外。
「そうすると……残るはふたり」
派手な赤いツナギにやはり派手な頭の青年と、見るからにおだやかそうな――というか女顔の――少年。
「なるほど、キミが“たくみさん”ね」
少年のほうとアタリをつける。
「苦労しそうね、キミは」
話したこともない少年に同情すると、再び可憐の寝顔を見つめる。
「でも、いつかは紹介しなさいよ。……10年くらいは待っててあげるから」
終わり
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