二次創作小説
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KANRI

GALAXY ANGEL ― The meaning of the name ―

8ページ目


「本当に……お変わりないんですね。安心したのが1割、呆れが9割です」
「そっくり返すぞ。そのセリフ」

 そんなこんなではあったが、多感な時期に、決して短くない時間を共有した者同士。5年の空白があるとはいえ、話のタネは次から次と湧いてくる。

 たとえば、寮での生活と、別れの日まで続いた日課。
「思えばあの頃から縁があったのかもしれませんよね。寮に着いてみれば私たちのお部屋が隣同士でしたし」
「ま、部屋割りに関しては普通にありえることなんじゃないか?男女別の50音順。同期の女子はお前とケラウトのふたりだけだったし。“ラ”スク・フェイカーが男子の最後ってのも珍しいことじゃない」
 ちとせは小さく頷く。
「でも、日課まで重なるのはそうじゃありませんよね?」
寮に入ったら毎朝のランニングは欠かさない。そう決めていたラスクがいざ始めてみたら、走ってる途中で後ろから声をかけられ、振り返るとそこにいたのがちとせだった。
「私も同じことを考えていて……びっくりしましたよ。でも、ずっと続けられたのはふたりだったから……かもしれません」
「確かに、な。先に投げだしたらみっともない、そんな意地で続いてた部分もあったし」

 友人達のために四苦八苦したこと。
「そういえば……覚えてますか?セラ・ケラウトさんとルーフ・イラウさんのこと」
「忘れるわけないさ。俺のルームメイトだったイラウとお前のルームメイトだったケラウト。いっつも4人でつるんでたからな。一番印象に残ってるのは……あのことだけどな」
「ええ。あのこと、ですよね。やっぱり……」
 ちとせも小さくため息。
 ちとせのルームメイトだったセラ、ラスクのルームメイトだったルーフの両名が互いに思いを寄せあっており、奇しくも同じ時期に相談を受けたことがあった。
「ケラウトのやつに相談されて、どうしたもんかとお前に話してみればお前はイラウに相談されてた。ま、自分のルームメイトに直接は相談しにくかったんだろうけど」
「はい。それで、なんとかしてあげたいって思って……でも、恋愛のことなんて少しもわからなくて……」
 だから、ちとせが発案した。まず恋愛のなんたるかを知ろう、と。そして、休日にちとせとラスクのふたりで出かけることになった。話題の恋愛映画を観たり、人気の恋愛小説を買い込み、サンドイッチ片手に公園であれこれ相談しつつ読みふけったりもした。結局、赤面するだけで大した戦果は得られずじまいだったが。
「で、作戦を立て直そうってことになって……帰りのバス亭に行ってみれば、あいつらがいたんだよな。手をつないで」
 鮮明に思い出したのか、ちとせもどこか疲れた声で続ける。
「ええ、なんだか出るに出られなくて……バスに乗り損ねて……おまけにそのバスが門限に間に合う最後の便で……タクシーを使うハメになったんですよね……。痛い出費でした」
「ああ、そこまではまだいい。その後が……な」
 どうにか門限までに寮にたどり着き、部屋に帰ってみれば待っていたのはニコニコ笑顔のルームメイト達。第一声は「付き合うことにしたんだ」だった。
「それ自体は喜ばしいことのはずだったんですけど……」
「休みを1日空けるために徹夜してまで課題を仕上げた俺達の立場は?そう思ったよ」
 ふたり揃って大きくため息。
「でも、お優しいです。お祝いも兼ねて学校の裏山へピクニックに行こうって、そう提案したじゃないですか」
「ま、あれでもダチだからな、一応。辛気臭いのはウザいし」
 どうでもよさそうに言い放つラスク。が、それが照れ隠しだということもちとせは思い出していた。素の口調はお世辞にも丁寧と言えないし、必要以上に悪ぶるところもあるが基本的にラスク高レベルのお人よしなのだ。
「それに、美味かったからな。お前の作った弁当は」
「でも、重箱を開けた時、皆さん唖然としていましたよね?」
 少しいたずらっぽく、上目使いを向ける。
「まあ、それは……な」
 ピクニックの真の主役ともいうべきもの、ちとせの手による弁当はぎっしりと重箱に並べられた――おむすびだった。それなりに期待していたラスクには――ラスクが後で聞いた話ではセラ、ルーフのふたりにもとっても――肩すかしであった。
「けど、素直に感心したぞ。米と調味料、簡単な具材だけであれだけのバリエーションを作れるってのはすごいと思う」
「ふふ、ありがとうございます。幼いころから母に仕込まれましたから。それに――」
「なにせ急な思いつきだったからな。ロクな材料がなくてもありあわせでなんとかするのも知恵、だろ?散々聞いた」
 とラスクは先回り。
「はい、基本ですから」

 力を合わせて強敵に勝利したこと。
「あのサバイバルゲーム大会の時は、傑作だったよな」
「ゲームって……正式な学校行事でしたよ……」
 ラスクの口が悪いことをすっかり思い出していたとはいえ、そこはちとせ。しっかりと突っ込む。
「でも、よく勝てましたよね。相手は優勝候補の筆頭だったのに」
 年度末に行われるセンパール士官学校の正式行事。クラス対抗、30人対30人での銃撃戦闘。くじ引きで運が悪かったとはいえ、ちとせとラスクが所属する1年生クラスの初戦相手は同じ宇宙科の最高学年クラスだった。試合前から諦めムードは濃厚。ほぼ全員が、勝てるわけがない、と思っていた。仮に士気がじゅうぶんでも勝ちの目はほとんど無かっただろう。そんな中、勝利を諦めていなかった少数派のひとり、ラスクはある作戦を立てた。無理、無茶、無謀と三拍子そろった作戦を。
「すごいこと考えましたよね。30人のうち29人をオトリに使うなんて」
「まともにやったら実力差は歴然。なら……まともにやらなきゃいい。基本だろ?」
「え、えーと……」
 そう言われても素直にはうなずけなかった。
 試合の使用武器は1クラスにつき銃30丁。種類はライフル、ハンドガン、マシンガン、ショットガンから振り分けも含めて任意で、マガジンは各銃につきひとつ。当然それぞれの銃には得手不得手がある。弾丸は全てペイント弾。一発でも受けた者はそこでリタイア。各クラスからはひとりリーダーを決め、勝利条件は敵クラスのリーダーを撃破すること。
 それらのルールからラスクが発案した作戦。それは武器を全てライフルにし、攻撃はちとせひとりに全て任せる、というもの。圧倒的な戦力差の中でただひとつ勝っている点、それが桁外れの精度を誇るスナイパー――ちとせの存在だった。
「丸腰の29人が敵陣へ突撃、離脱を繰り返し、その隙に私が長距離から狙い撃つ。おまけに先陣をきるのはリーダーのフェイカーさん。最初に聞いた時は正気を疑いましたよ」
「普通なら突撃部隊、というか俺が蜂の巣にされて終わる。けど、お前の援護があれば簡単にはやられないだろ?」
「だからってリーダーがオトリ……いえ、矢面に立つなんて……」
「そのくらいしなきゃ向こうさんの目を欺けなかった。逆に、そこまでやれば向こうは疑惑を抱く。お前の狙撃が付いてればなおさらな。そして、疑惑は動きに迷いを生み、そこを狙い撃たれれば向こうはさらに目を曇らせる。そんな悪循環を狙ったんだ。ま、素直にいくなら奇襲でリーダー潰しに賭けるってなるんだろうけど……その発想は絶対読まれてたはずだろ?だから、な」
「だから、あえてリーダーを狙わずに敵の数を減らしていく。それを繰り返して最後まで押し切る。という予定だったんですけど……」
 顔を曇らせる。
「奇をてらっただけの策なんてそううまくはいかないってことか」
 ラスクの策は奇をてらっただけのものではない。ちとせは経験上それを知っていたが、言っても否定されるだけと思い、あえて突っ込みはいれなかった。
 ともあれ、敵も優勝候補と言われるだけのことはあり、最後は読まれ、逆手に取られた。ちとせ、ラスク以外は全滅、さらにちとせとラスクも5名に包囲されてしまった。
「でも、フェイカーさんの機転で逆転できたんですよね」
「機転、か……。あれは……今だから白状するけどさ、苦し紛れの思い付きがうまくいっただけなんだよな……」
「そう……だったんですか!?」
 5年目の真実、というには大袈裟だろうが、ちとせは目を丸くする。
「あからさまにカウントダウンをしてやれば注意はゼロの瞬間に集まるだろうってな」
「あとは後ろ手で私だけにわかるように合図、カウント4でフェイカーさんが動いて射線を空けると同時に私がリーダーを狙い撃つ。敵も数を減らしていて、リーダーが包囲に参加していたのがアダになったんですよね?でもすごいですよ、あの状況でそんな発想が浮かぶこと自体が」
「俺としてはそれを一瞬で理解して、照準時間ゼロで、大振りのライフルで、顔面にペイント弾を撃ち込んだお前の腕に驚いたよ」
「そうだったんですか。そういえば……それからでしたっけ。まだ続いてるんですか?あの口癖って」
 ふと思い出したことがあった。言い出したのが誰なのか?そんなことは記憶の彼方だが、性にかけたラスクの二つ名があった気がする。褒めているのか、けなしているのか、よくわからない呼び名ではあったが、ラスクはなぜかそれを面白がり、ことあるごとに口にしていた。
「さすがに今は意識してるわけじゃないさ。つい口にしちまうけどな」
 一呼吸入れる。
「「俺はFakerだからな」」
 ふたりの言葉、続く笑い声が重なった。
 Faker。――ペテン師。

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