二次創作小説
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KANRI

GALAXY ANGEL ― The meaning of the name ―

6話 望まれぬ決意 1ページ目


「もうこんな時間……。私、そろそろ行くね、ちとせ」
 桜の花びらが舞い散る中、いきなり名前を呼ばれた。どうしてなのか、その声には懐かしさを感じる。
「え……?」
 振り向いて、ちとせは困惑した。後ろにいたのはふたりの女性。年齢的には“少女”といえるだろうか。
 どちらにも見覚えがあった。
 ひとりは、ジーンズにジャケットというラフな格好をしたショートヘアーの女の子。見るからに快活そうで、ちとせの知る限りでは実際に快活だった。名は、セラ・ケラウト。センパール時代のルームメイトである。
 そして、もうひとりは――手に赤いリボンを握りしめた黒髪の女の子。やはり士官学校時代、鏡の中に何度も目にした顔だった。
「はい……」
 “ちとせ”は力無い声を出す。伏せられた瞳に揺れるのは、深い悲しみの色。
 記憶にある場面が記憶に無いアングルで展開されていた。

 ――これは……卒業式の翌日、私とセラさんが寮を引き払う時の……?

 ふたりともちとせの存在には気づいていないようだった。
「良かったらさ、宇宙港まで一緒に行かない?ホラ、ちとせが乗る便ってさ、私の2時間後くらいでしょ?」
「ごめんなさい。それでも……ぎりぎりまで待ちたいんです」
 友人の気遣いは理解していたのだろう。“ちとせ”はすまなさそうに答えた。
「あいつのこと?」
「はい。約束しましたから。……あの人なら……私を驚かせようって……わ、忘れた頃に現れるくらい……やりかね……ま……せんから……」
 “ちとせ”の言葉が途切れ途切れになり、ぽろぽろと涙がこぼれ始めた。

 ――そう、あの時はそう信じて……願っていた。けれど……。

 まるで過去の自分とつながっているように、胸の痛みが伝わってくる。
「ちとせってさ、好きだったの?あいつのこと」
「はい」

 ――それは……。

 セラの問いに“ちとせ”はか細く、けれど迷い無く答えた。
「大好きでした。大切な……お友達でしたから」

 ――大切な……お友達。確かに……あの時はそう思っていた。でも……。

セラがどんな意味で問うたのか、今となってはわからない。けれど、過去の自分が口にした言葉は、今のちとせの深い所に突き刺さっていた。

 ――そう……だったんだ……。今……初めてわかった気がする。

 その結論は、ぴたりとあてはまるようで、すんなりと受け入れることができた。

 ――私は……あの人のことが――

「好き……だったんだ」

 いつの間にか昔の自分と友人の姿は消え、目に映る景色は桜の舞うセンパール学生寮からエトランゼ内の私室に変わっていた。
「大好きでした、か」
 左腕をかばうようにベッドから身を起こし、夢の中で聞いた言葉を、昔に口にした言葉をつぶやいてみる。
 それだけで、胸の奥に形容しがたい何かが広がった。それは――痛いような、くすぐったいような、温かいもの。生まれて初めて経験するものだった。
「大好きでした」
 デスクの引き出しにしまってあった巾着を握りしめ、もう一度口に出してみる。
 あの時は“友人として”大好きだったと、そういうつもりで言った。けれど、本当にそれだけだったのだろうか?
 当時、まわりにいたのはほとんどが男性だった。そんな中でラスクにだけは、全く異性を意識せずに接していたように思う。けれど――

 ――あの人は……口が悪くて……ひねくれもので……人をからかって喜ぶ困った人で……でも、いつも前向きで……何事にも一生懸命で……それに、なんだかんだ言いながらも結局はお人よしで……。

 不思議だった。
 ラスクの事を考えれば考えるほどに、胸の奥に生まれた感覚が強くなっていく。こんなことは初めてだった。

 ――私……あの人に惹かれてたんだ……。きっと、自分でも気づかないうちに。

「ど、どうしよう……」
 自分の気持ちに気がついたまではよかった。
 が、ちとせはそれを、もてあましてしまっていた。

 他の誰かに相談する。というのはこんな場合有効ではあるだろう。けれど、エトランゼにおけるちとせの立場上(他称英雄であり、その存在が周囲の支えとなっていることはちとせも理解し、不本意ながら受け入れていた)おいそれと悩み相談をできるような相手はいなかった。
 例外はラスク、ラフレンスの2名であるが、当然ラスクは除外。ラフレンスはこの手の相談には不向き極まりない相手だった。

「……………………うくっ!?」
 どうしたものかと室内をぐるぐる歩き回るうち、ズキリとした痛みに膝をついてしまった。痛んだのは胸ではなく左腕。
 戦場で動きが悪くなるのを避けるため、治療はおろか麻酔さえも使用していなかったために左腕の怪我はかなり悪化していた。
 ひと眠りする間だけでもと思い(正確には痛くて眠れそうになかったので)打ってもらった痛み止めが切れかけているようだった。
「もうこんな時間……」
 時計へと目をやる。作戦最終段階開始まであと3時間といったところだった。
「うん、今は作戦のことだけを考えよう」
 目の前の問題はとりあえず棚上げすることを決める。

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