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| GALAXY ANGEL
― The meaning of the name ― 6ページ目
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「なるほど……」
エトランゼの出航が延期となった日の晩、ちとせは自室で資料に目を通していた。
量産紋章機試作――Prototype・Wing――通称PW。H.A.L.O.の役割をAIが代わりに行うことで従来の戦闘機を大きく上回る出力を生み出すことが可能。さらにパイロットの適性や精神状態に左右されないため、安定性の高い戦力となる。
試作の2機は同型の――戦闘機としては標準的な――フレームをベースに異なる個性を持たせたもの。試作01・ホーリーブラッドはエネルギーフィールドをまとっての突撃を可能にした近接戦特化。02・サクリファイスは従来とは異なるコンセプトを用いた大出力エネルギー砲を装備した火力特化の機体である。
「ふぅ……。遅いですね」
そこまで読んだところでちとせの口からは何度目になるかもわからないため息がこぼれた。
時刻はすでに夜の9時をまわっている。だが、“遅い”という言葉も、ちとせのため息も、あまり集中できず、まだ資料の半分も目を通せていないことに対して、ではない。
――サインを読み違えた……わけじゃないはず。あの時の数字は………08171、で最後に反転……だから……。間違いはないと思うけれど……。
なんの音沙汰も無いことに不安がこみ上げてきた。
――さっき給湯室に行った時……まだ整備班の人たちは慌ただしい感じだったけれど……まだ機体のことで手間取っているのかもしれないし……。
「うーん……」
小さく伸びをして気をとりなおす。少し顔を出してみようか、と考えたところで来客を告げる電子音が鳴った。
「どなたですか?」
もしも、ということもありえたので、はやる気持ちを抑えつつ普通に呼びかけてみる。
「ラスク・フェイカー少尉です。このような時間に申し訳ありません。戦闘機におけるクロノドライブ理論に関することでお聞きしたいことがあるのですが、少々お時間をいただけないでしょうか?」
声の主は期待通りの人物。返ってきた言葉は折り目正しい、あるいは事務的な、といえる。けれど、その中に含まれていたひとつの単語に、口元がゆるんでしまう。
すぅー、はぁー、と深呼吸をして息を整える。
「どうぞ」
「夜遅くに手間を取らせてしまい、申し訳ありません。烏丸大尉」
来客を迎え入れ、再びドアをロックすると、ちとせは表情を柔らげ、小さく首を振る。
「あのサインを受けて待っていたんです。烏丸、で結構ですよ」
「OK。正直なところ、お前を階級で呼ぶってのはずっと違和感があったんだ。このほうがしっくりくるな、うん。久しぶりだな、烏丸」
ラスクもまた表情と口調を旧友――友人へのそれと変えた。
「ふふ、私もですよ。……お久しぶりです。フェイカーさん」
「サインが伝わってるかどうか……少し不安もあったんだが。よく覚えてたよな」
ほっとしたようなつぶやきに、ちとせは小さく首を振って応える。
「いえ、すっかり忘れていました。覚えていたのではなくて……思い出したんです。フェイカーさんこそ、よく忘れませんでしたね」
「ロクでもないことは忘れない性分なもんで、な。08171、でオヤイナイ。親居ない。そこから、“今夜は両親が留守なので思い切り騒げる。だから遊びに来い”最後に反転、で“今夜遊びに行くぞ”ってな」
ちとせが引き継ぐ。
「あとは、見とがめられた時の言い訳を兼ねた合言葉が“クロノ・ドライブ理論”」
それは、当時センパール宇宙科の学生寮にいたものだけが知っているはずの暗号。
「本当に……フェイカーさんなんですね」
ちとせの声に湿り気が混じっていく。
「ああ。正真正銘の俺だ。センパールで、それなりの時間をお前と共にした……ラスク・フェイカーだよ。……もっとも、詳しく調べただけの偽物だろうと言われれば返す言葉も無いけどな」
と、冗談めかす。
「いいえ」
ちとせはそれを静かに否定する。
「髪の色もですけど。なによりも、その物言い。偽り無く私の知るフェイカーさんです」
「そっか……」
「あ、立ち話もなんですから……こちらへ」
指差した先には、折りたたみの椅子がふたつにテーブル。その上にはポットときゅうす。そして、湯呑みがふたつに茶葉の缶が並べてあった。
「なにかお茶受けが用意できれば良かったんですけど……なにぶん急だったもので……」
言いつつも、慣れた手つきで茶を注いでいく。紅葉模様の湯呑みから湯気と一緒に独特の香りが広がった。
「サンキュ。んじゃ、乾杯といくか」
「はい。では、5年ぶりの再会に?」
「いや、こっちの方が面白い。あー、9年前のあの日、宇宙港の前でバス亭を捜してた黒髪の女の子に」
「ふふ、では私は……9年前のあの日、宇宙港の前で記念碑を見上げていた白髪の男の子に」
それは、初めて出会った時の――ふたりの初めての思い出。
「「乾杯!」」
続き
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