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| GALAXY ANGEL
― The meaning of the name ― 3ページ目
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「サクリファイス……ですか?」
出航延期の知らせを聞いてから数時間後、セントラルグロウブ内の一室でちとせの口からこぼれたのはそんな疑問符まみれの発言だった。
「ま、当然だろうな。その反応は」
そう答えたのはUPWの長官付き補佐官にして実質的な副長官、レスター・クールダラスである。苦笑いを浮かべているあたり彼も同じ疑問をいだいたのだろう。
「繰り返しになるが、量産型紋章機のプロトタイプ02、コードネーム・サクリファイスとそのパイロットがエトランゼに配属となる。……急な話ですまんとは思うがな」
「いえ、お気になさらずに。急に出航が延期になったのは機体の搬入とパイロットの受け入れのためだったんですね?」
「ああ、今頃は搬入が始まってるだろう」
「いくつか質問をよろしいですか?」
小さく手を挙げる。
「ああ、構わんぞ」
「なぜエトランゼに、なのですか?確かにエトランゼでなら戦闘機の運用は可能ですし、“影の月”のような前例、危険なロストテクノロジーとの遭遇も予想されます。それに未知の宇宙に向かう以上備え、戦力が多いにこしたことはありません。ですが……理由としては少し弱いのでは?」
「正確には“エトランゼに”ではなく“お前のいるところに”だ」
「私の……ですか?」
よくわからない、という風に小さく首をかしげるちとせ。
「量産が前提である以上連携戦闘のデータも必要となるんだ。そして、今第一線で運用されている紋章機となればかなり限られてくる。ルクシオールという選択肢もあったが、そっちにはプロトタイプ01、ホーリーブラッドが配属となる。これで納得できたか?」
「そういうことでしたか。はい、わかりました」
「他になにかあるか?」
「後は……機体のコードネームでしょうか」
「だろうな」
トランスバール皇国時代から続いている慣例のひとつに“戦闘機のコードネームは搭乗者が決定する”というものがあり、紋章機も例外ではない。もっとも、シャープシューターの名に関しては厳密にはちとせの発案ではないのだが。
「サクリファイス、でしたか。その名も……パイロットの方が?」
Sacrifice――犠牲。自身の搭乗機にそんな名をつける、ということは――
「俺も同じことを聞いたな、ノアに」
「ノアさんに?」
突然出てきたのはまた別の名前。
「何人かの候補からそいつを選んだのはノアだ」
「そういえば……量産紋章機の計画はノアさんが進めているものでしたね」
「ああ。単刀直入に言うぞ。お前が気にしているのはそいつが妙な……有り体にいって自殺願望かなにかの持ち主なんじゃないか、ってことだろう。違うか?」
「はい」
「答えはノー、とのことだ。もっとも、人格には別の意味で問題がありそうだが」
「えっと……それは……」
とりあえずの不安は否定された。が、レスターの口から出たのはどこか疲れた感じの発言。
「なんともふざけた理由で決めた名前らしい。……その点ではあのバカに匹敵する問題児かもしれんがな」
「……もしかして……タクトさん……ですか?」
遠慮がちな質問に対してレスターは首を縦に振った。心底ウンザリだ、という表情で。
あのバカ、だけで誰なのか通じてしまう。これはちとせとレスターの付き合いの長さゆえなのか、あるいはタクト・マイヤーズの人となりによるものなのかは判断が難しいところであろう。
「……相変わらず、みたいですね……」
「相変わらずだよ。困ったことにな。今度こそ腐れ縁が切れたと思ったんだが……今度もヌカ喜びに終わったよ。と、話がそれたな。サクリファイスの名前だが――」
ピピッ!ピピッ!
急に鳴り出した電子音がレスターの言葉を遮った。
「すまん、少し待ってくれ」
と、備えつけのインターホンを取る。
「ああ、俺だ。どうした?……………………なんだと!?」
高指向性のスピーカーを使っているせいで通信相手の声は聞こえなかった。が、レスターの額に浮かんだ青筋をちとせは見逃さなかった。そして、経験によれば彼がそのような反応をする時は8割超えの確率である人物が関係していたはず。
「あのバカはどこにいる?………………………わかった、すぐに行く。今日という今日は勘弁ならん!」
通信の終わり際にはレスターの手の中からミシリ、という音まで聞こえた。
「あの……タクトさんが……また何か?」
一応は遠慮がちな質問口調をとっているが原因が誰なのかはちとせもほぼ確信していた。
「仕事をサボってマスターコアに立てこもっているらしい。ご丁寧に長官権限で内側からロックまでかけてだ」
「そ、それは……。お疲れさまです……」
あまりにもあまりな職権乱用ではあったが、それ以上にレスターの声が不自然なほど平坦でやはり不自然なほどに無表情であることに軽く恐怖を感じつつもどうにか言葉を絞り出す。
「すまんが、なにかあれば連絡をくれ。必要な資料は全部そこに入っている」
それだけ言って机の上に置かれた分厚い封筒を指さすと、レスターは返事も待たずに部屋を飛び出して行った。
「本当に……相変わらずなんですね」
ひとり残されたちとせはぽつりとつぶやく。
ずっとミルフィーユとはロクに逢えなくて、そんな中で起きたNEUEでのクーデター騒ぎ。その間……大切な人の生死すら不確かな状況でルクシオールを指揮し続けたことの反動もあるのかもしれない。
不意に、今朝の夢が脳裏をよぎった。
「そう……確かに……辛いですよね……」
ちとせの独り言はそのまま消えていった。
続き
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